第8回 “アメリカの法律用語について”

 アメリカの法律と日本の法律は決定的に違います。日本は法律の条文が書いてあり、その解釈で法正義を実現しています。アメリカはそうではありません。日本のように、法律という文章を作り、それを解釈するのはフランスなど、ヨーロッパの諸国が採用している演繹法で、世界中ほとんどの国がこのような法律体系を持っていると思います。

しかし、イギリスは裁判所が過去に判断した判決も、先例として重要視します。条文として書いていなくても、過去の法的判断から法の正義の在り方を見つけ出すこの方法は、法律の歴史的経緯の一貫性が持てるという利点がありますが、日本から来る人間にとってはややっこしい以外の何物でもありません。

そもそも、イギリスの憲法というちゃんとしたものは存在せず、古い文書のマグナカルタや、権利の章典などが文章化された憲法の一部で、あとは過去の判例が憲法なのです。

なにしろ、今でもイギリスは裁判となると裁判官を始め、法曹関係者は古めかしい装束にかつらを被るような古めかしいことが好きな国です。日本の裁判所で大岡越前の格好をしたら可笑しいでしょう。

アメリカはこのイギリスの経験法の伝統を受け継いでおり、過去の判例を法律とする考え方です。アメリカ合衆国憲法は独立当時の13州の組合の規則みたいな性格で、いろいろなその当時の最先端な民主主義の考え方が盛り込まれています。

しかし、今やアメリカは多民族国家であり、奴隷制度も禁止し、昔の条文だけでは憲法として不便になりましたので、修正条項(amendments)が付け加わりました。こちらの法が事実上の憲法です。そこで、その条文を読んでみましょう。

 

A well regulated militia being necessary to the security of a free State, the right of the People to keep and bear arms shall not be infringed.

 

 これが有名なSecond Amendment(修正第2条)です。アメリカ市民は武器を所持し、身に付ける権利を有する。これがアメリカにおける基本的人権です。道理で銃規制が難しいわけです。

 

 では、次に基本となる法律の単語を学んでみましょう。

 

まずは殺人

 

First degree murder

第1級殺人罪と訳します。Second degree murderとFirst degree murder を分けるのは、前もって殺意を持っていて、準備などをしたかどうかです。殺すべき殺意を持っていたかが焦点となるわけですが、これを Malice aforethoughtと言います。この単語を見てください。アメリカで法律を勉強する苦労が分かると思います。

 

First degree man slaughter

人を殺した場合、重い犯罪の順番にFirst degree murder, Second degree murder, First degree man slaughter, Second degree man slaughterと4つの罪のどれかに問われるわけです。First degree man slaughter 第1級故殺罪とは、相手と喧嘩してカッとなって殴ったら死んでしまったような場合です。Malice aforethoughtは存在しない場合です。Second degree man slaughterとは、野球の練習でバットを振ったら人に当たって死んだ場合などです。

 

Arson

放火罪、意図的に人の所有財産に火をつけること

 

Robbery

強盗、これはThreat of Violenceで人に恐怖を与え、不法に所有物を奪うこと

 

Assault

暴行罪、相手に身体的攻撃を加えること

 

Theft

窃盗、他人の所有物を盗むこと。盗んでいる最中に所有者と出くわし、何らかの声を出すと、相手が恐怖を感じ、Robberyに罪状が格上げされることがあります。

 

Felony、Misdemeaner

Felonyは重罪と訳されますが、アメリカでは犯罪で1年以上の刑期の判決が出る犯罪をFelony、1年以下の犯罪をMisdemeanerと言います。FelonyにはAからFぐらいまで分類があり(州によって違いますが、似たり寄ったりです)、例えば、これはClass E Felonyだとか言えると大変格好いいものです。

 

Hate Crime

同じ罪でも、例えばassaultのケースでも、相手がイスラム教徒だから殴ったとか、特定の人種、信仰、性的傾向などへの偏見や嫌悪感から罪を犯した場合、Hate Crimeと言い、罪状は3割増しになります。例えば、ナチスがユダヤ人を迫害したなんぞはHate Crimeの典型で、アメリカで裁判したら大変な判決になります。イスラム教徒の例を出しましたが、彼らはまだおとなしい方で、厄介なのは殴った相手が同性愛者や黒人だった場合です。弁護士が喜んで出てきて“Hate Crime”と叫んだ瞬間、簡単な罪が重罪に変わるのです。

 

 一般にアメリカの法律は刑事訴訟法を極めて厳格に適応します。例えば、殺人事件が起き、検察は犯人が公園に住む浮浪者だと見当をつけ、浮浪者の住むダンボール箱をどかせてみると、血の付いたナイフが見つかりました。指紋は犯人のものと一致し、血液DNAは被害者のものと一致したとします。すると弁護側は修正第5条“No person shall be………deprived of life, liberty, or property, without due process of law”をもとに、ナイフを見つけた時に家宅捜索令状を申請していなかったため、ナイフを証拠として取り上げないよう抗弁するでしょう。日本では、このケースは問題なく有罪が確定しますが、アメリカでは簡単には有罪にできません。民主主義のもとにおける有罪の確定ルールを厳格化しているのです。

 また、アメリカでは交通違反は強烈に罰します。アメリカで生活する際は十分気を付けてください。

 

最後に弁護士に関するJokeをひとつ(*)

 

A man went to a brain store to get some brain to complete a study.

He sees a sign remarking on the quality of professional brain offered at this particular brain store. He begins to question the butcher about the cost of these brains.

 

“How much does it cost for engineer brain?”

 

“Three dollars an ounce.”

 

“How much does it cost for programmer brain?”

 

“Four dollars an ounce.”

 

“How much for lawyer brain?”

 

“$1,000 an ounce.”

 

“Why is lawyer brain so much more?”

 

“Do you know how many lawyers we had to kill to get one ounce of brain?”

 

(*)Title:“Not of This World”, Author:Ramona Holliday, Copyright 2008

 
 

著者プロフィール

小林 恵一(こばやし・けいいち)
1980東京大学文学部西洋史学科卒業、1988年神戸大学医学部卒業。1990年~1993年南カリフォルニア大学ハンティントン記念病院内科レジデント、ハワイ大学内科レジデント。東京八王子東京天使病院内科部長、御代田中央記念病院副院長を経て、1997年米国ハワイ州ホノルルにて開業。2014年より財団評議員。

ジャナメフ